衝撃のドラマシリーズ『クイーンズ・ギャンビット』

『クイーンズ・ギャンビット』はNetflixの最新オリジナル限定シリーズのひとつであり、ウォルター・テビスが1983年に発表した同名の小説がベースとなっています。孤児院の地下室でチェスをしていた孤児のエリザベス・ハーモンが、世界一のプレイヤーを目指して競うようになるまでの過程が描かれています。

この作品では、人生の過程において薬物、アルコール依存症、悲哀、失敗などに苦しむ若き主人公が見事に描かれています。ハーモンの人生における苦悩は、絶対的に、そして痛々しいほど忠実に表現され、柔らかい表現やロマンチックな表現は一切用いられません。最近のマスメディアでは、なかなか珍しいことではないでしょうか。

この作品は、一般の視聴者に加え、チェス愛好家からも注目されています。そのため、Netflix配信開始からわずか28日で、同ストリーミングサービスの限定シリーズの中で最も視聴された作品となりました。最初の1ヶ月で、全世界で6,200万人の視聴者がこの作品を視聴したのです。さらにNetflixのトップ10を独占し、大成功を収めています。

この作品は、チェスのゲームを詳しく解説したり、視聴者にプレイの仕方を教えたりはしませんが、結果として、チェスゲーム界全体の成功を後押ししました。チェスとプレイ方法に関するGoogle検索数は倍以上に増え、chess.comの新規プレイヤー数は5倍以上にもなりました。 

この作品の人気は、ハーモンを演じている主演女優、アニャ・テイラー・ジョイの魅力によるところが大きいと言えるでしょう。彼女が作品全体を支えていると言っても過言ではありません。テイラー・ジョイは、圧倒的な演技力、鋭い眼光、全体的な魅力で、キャラクターを生き生きと演じています。

テイラー・ジョイは、ハーモンの人生において、幼い思春期時代という難しい時期から、若者へと成長・成熟していく過程、アルコール依存症や虐待者という道を踏み外す経験、そして失敗から学び、自分や周りの人生を変えていく女性に成長するまでを見事に演じ切っています。

ハーモンの人生の幅の広さ、そしてこれまでのエピソードでハーモンのキャラクター・アーク(感情や環境の変化)が完結したことから、視聴者はハーモンの欠点や問題点を認めつつも、他の人々との交流や彼女の弱い部分に共感できます。ハーモンは動的なキャラクターですが、テイラー・ジョイはハーモンのあらゆる側面を見事に演じています。

他の俳優も良い演技を見せています。トーマス・ブロディ・サングスターはハーモンのライバル、師匠、そして恋愛相手となるベニー・ワッツを見事に演じました。ブロディ・サングスターは、このようなタイプの役には不慣れでしたが、ストイックながらカリスマ性のあるキャラクターで視聴者を魅了しました。

孤児仲間であり、後にハーモンの親友となるジョリーンを演じたモーゼス・イングラムは、いつもながら素晴らしい演技でした。このキャラクターも大きく成長し、ジョリーンが有色人種の女性として力をもつようになります。イングラムはこの過程を見事に表現しています。

アイラ・ジョンストンは幼いハーモンを演じました。その幼さからは想像もできない成熟した演技で、ハーモンの依存症と絶望の背景をうまく表現しています。